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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)6号 判決

控訴人(原告) 内藤進夫

被控訴人(被告) 兵庫県

主文

本体控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  控訴人が被控訴人に対して雇用契約(任用関係)上の権利を有することを確認する。

(三)  被控訴人は、控訴人に対し、昭和五五年二月二一日以降一か月金一四万三三〇〇円の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  主張及び証拠関係

次に付加訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決二枚目表一一行目の「付けで被告教育委員会に」を「、被告(任命権者兵庫県教育委員会)により、」と訂正する。

2  同四枚目表一二行目と一三行目の間に、「ところで、殆んどの犯罪には懲役刑が科せられているため、罪を犯せば大抵禁錮以上の刑に処せられた者に該当することとなる。現在では公務員の職種の拡大によつて犯罪に陥る機会も増大しており、よく起りがちな交通事故等によつて禁錮以上の刑に処せられると、執行猶予を得たとしても直ちに職を失うにいたるのは不合理であり、しかも、私企業労働者に比し酷である。」を加える。

同五枚目表一〇行目の「雇庸」を「雇用」と訂正する。同六枚目表八行目の「三一ないし三三条」を「三一条及び三三条」と、同七枚目表六行目の「失権原因」を「失格原因」と訂正する。

3  同一〇枚目表八行目と九行目の間に、「国民主権国家においては、国家の機能の源泉は国民に在り、国民全体が自らの代表者を選定し、代表者の意思によつて決定される国家意思にしたがうという民主主義が実現された。民主主義は、「人民の、人民による、人民のための政治」を原則とし、治者と被治者との自同性をその前提としている。従つて、国民自らの意思を実現すべき公務員は、国民と対立する特権者ではないし、また国民とは異なつた人格的無瑕疵性を要求されるわけでもない。」を加える。

4  同一一行目の「なつている。」の次に「すなわち、戦後、国家や地方公共団体の機能は、その意思実現のための権力的作用にとどまらず、医療、教育、通信、運輸等多種多様な福祉的作用に及び、それと同時に公務員労働者の多様性をみるにいたつた。そして、公務員労働者の労働過程は、私企業労働者のそれと殆んど変りがないから、両者を峻別することは極めて難しい。最近の行政改革による民営化の諸現象は官民の区別を一層相対化しているが、官民区別のメルクマールとされてきた公共性が民営化された企業においても維持されている点に注目しなければならない。」を加える。

5  同一七枚目表九行目と一〇行目の間に、次のとおり加える。

「〈3〉 ところで、国民の意思を代表する公務員や高級公務員に対しては、人格の高潔が望まれるけれども、単純労務に従事する公務員に対しては、提供される役務が公正であれば足りるのであつて、公務員自身の無瑕疵までは求められない。憲法の公務員像は、「全体の奉仕者」のみであるけれども、憲法自体は二種類の公務員を想定しており、この区別の根拠は憲法一五条の一項と二項に存する。一項は、国民主権に基づき、代議政治を意味すると同時に、公務員が国民主権のもとに従属してその権限を行使すべきことを示している。しかし、本項による選定・罷免の対象たる公務員は、単純な事務・技術に従事する者ではなく、政治的立場にあつて権力行使の任務を持つ者を主体としている。そして、このように選定された者が他の公務員を任命していくことが、ひいては国民の意思に基づいているということになる。しかし、代表者によつて任命された公務員のすべてが代表者であるとは誰も認めはしない。一般公務員に求められるのは不偏不党、公正に公務を遂行することであつて、代表者にふさわしい資格などではない。同条二項は、このことを規定し、すべての公務員に対して「全体の奉仕者」たるべきことのみを要求している。

そして、より多くの国民が公務に参加することを期待している。」以上のとおり加える。

同一〇行目の「〈3〉」を「〈4〉」と訂正する。

6  同一七枚目裏四行目と五行目の間に、「しかし、公務員の職種は多様であり、そのうち単純労働に従事する公務員に対して画一的に資格要件を定めることが不合理であることを立法自体が認めている。自動失職制度の苛酷性は、失職が法律上当然に生ずる効果であるため、自動失職に該当する事由の存否に争いがない限り、その妥当性等実体に対する司法審査が受けられないことにある。」を加える。

同一〇行目の「敵対する」の次に「不正な」を加える。

7  同一八枚目表三行目と四行目の間に、「そこで、地公法は、禁錮以上の刑の場合でも、その内容によつては反社会性と直接結びつかない場合があることを想定しているのであつて、禁錮以上の刑と反社会性を同義に解し、それをもつて公務員資格の絶対的要件と解することは、同法二八条四項の例外規定が設けられている趣旨と矛盾するので許されない。昭和五九年九月現在において右条例による特例を有する自治体は一九七にのぼり、その要件は、〈1〉執行猶予、情状二〇、〈2〉執行猶予、情状、過失六一、〈3〉執行猶予、情状、過失、交通事故五、〈4〉執行猶予、情状、公務上過失四一、〈5〉執行猶予、情状、公務上交通事故、過失一八、〈6〉執行猶予、情状、公務上事故、過失一八、〈7〉執行猶予、情状、公務上交通事故二〇、〈8〉執行猶予、情状、交通事故、故意・重過失を除く四、〈9〉執行猶予、情状、故意・重過失を除く一〇等多岐に分れている。そして、昭和六二年二月現在においては一三〇の自治体が特例条例を制定し、殊に兵庫県内の神戸市、西宮市、加古川市、三田市においては執行猶予と情状を要件としているので、仮に原告がこのいずれかの市の職員であつたとすれば、失職事由に該当するかどうかについて当局の意思表示が介在するため、特例条例を適用せずに失職とする旨の通知が行政処分となり、その司法審査を受けることができたはずである。同じ地方公務員でありながら、兵庫県の職員である原告にはさかのぼつて身分を失うという法律上当然の効果が発生し、しかも行政処分性がないため司法審査を受けられないという結果となるのに比し、神戸市等の職員には失職通知が行政処分となるため司法審査を受けられるという差別は特例条例制度の合理性を失わせるものである。神戸市等のような特例条例を有する自治体においては、公権的に反社会性が確定された者が公務にたずさわることを許されているのである。このことからみても、犯罪の具体的内容とその違法性の程度や情状の差異を考慮すべきであつて、反社会性という抽象概念ですべてを包括することは許されない。」を加える。

同七行目の「公務又は」を「公務と無関係なもしくは」と訂正する。

8  同二〇枚目表四行目と五行目の間に、「すなわち、国民は何人もひとしく公務に従事しうる権利を有することは近代公務員制度の基本原理であり、憲法上の公民権的な側面からは参政権として、個人の基本的人権の側面からは職業選択の自由権として保護される権利であり、いずれの側面からも、憲法一四条の平等保護条項が適用されることはいうまでもない。ところで、公務員に対する資格要件は、右の基本的権利に対する制限であり、この制限が合憲であることは、合理性の判断にかかつているが、合理性という基準は極めて抽象的であり、憲法秩序内における諸権利と諸利益の対立における比較衡量によつて、基本的人権の尊重という原則にしたがつて規定されていくべきである。」を加える。

9  同二一枚目表五、六行目の「(免職等)をもつて可能である」を「(免職等分限処分)をもつて十分に可能であり、基本的人権を制限する制度は必要最少限度にとどめなければならない」と訂正する。

同二四枚目裏七行目の「要求している。」の次に「このように、行政処分や私企業労働者の解雇処分が適法か否かの判断について、合理的関連性原則の内容はすでに日本の判例に定着しているのである。」を、同二五枚目表一行目の「原則である。」の次に「この原則もすでに日本の判例に定着している。」を加える。

10  同九行目と一〇行目の間に、「殊に本件の場合には、公務員たる身分を取得したのちの犯罪ではなく、身分取得前の犯罪につき公務遂行中に公権的判断が確定した場合であるから、その職の信用を毀損しないことに留意すべきである。我が国の裁判所は、解雇や行政処分の審査において、実体的デユープロセス、合理的関連性、反証を許さない推定の原則を適用してきている。実はこれらの内容が憲法と法律との関係で法律の内容を審査する場合の基準として機能するかどうかが実体的デユープロセスの問題なのである。法律で最低限度の資格要件を定める合理的理由があるとしても、地公法一六条二号に執行猶予者を含め、自動失職と連動して弁解を許さずに資格や身分の剥奪を行なう制度は不合理であり、憲法一四条、三一条に違反する。」を加える。

同一三行目の「弁明」の次に「、告知」を加える。

11  同裏八行目と九行目の間に、「前記地公法の条項は、職業選択自由の権利をも制限するものであるが、司法審査を排除しても合理性があるといえるためには同法一六条二号から執行猶予者を排除する必要がある。執行猶予者には社会の内部において更生・改善が求められるが、それは行為者人格の危険性が少いからであり、生活の基盤が確立しておれば再犯に向わないと期待されているからである。従つて、執行猶予者は、原則として社会の各部署に受け容れられることを第一義とし、例外として各職務の責任とのかねあいから具体的関連性原則に基づく制限を行なうべきである。このように、執行猶予制度の意義からみて、すべての公務員について画一的に執行猶予者まで資格を制限することは余りに広い不必要な制限を課すことになるから違憲である。公務員の職務が単純労働や現業労働に拡大した今日、現行の資格要件は不合理な差別を助長するものといわざるを得ない。地公法一六条二号は、憲法一四条、三一条のほか、前科者の幸福追求権を保障する同法一三条にも違反している。」を加える。

12  同一二、一三行目の「一四条一項」の次に「、三一条」を加える。

同一三行目と同二六枚目表一行目の間に、次のとおり加える。

「(1)(イ) 法律が一定事項の立法を条例にまかせる場合には、一定の基準を定めてその枠内で条例に委任するのが通常の形式である。ところが、地公法一六条は、なんらの限定をつけることなく『条例で定める場合を除く外』と規定し、さらに同法二八条四項では一六条三号を除いて『条例に特別の定がある場合を除く外』と規定し、資格要件の内容及びその資格要件に該当した場合の処分についても包括的に条例に委任するという特異な立法形式をとつている。これは、当初の立法において、職務の内容に応じた欠格条項の緩和を予定していたことを物語つている。つまり、これらの各規定は、各地方公共団体において地方自治の本旨に基づき多種多様な職務の内容に応じた条例による具体化を不可欠な要素としていたものである。

(ロ) 沿革的にみると、地公法制定以降昭和三四年頃までは、各自治体において、特に職員組合の要求により、特例条例が全国的に多数制定されたが、自治省が昭和三四年頃より特例条例は適切でないとの行政指導を行なつたため、その必要性があるにもかかわらず、国家の政策により特例条例の制定が抑制されてきた。

(ハ) 法理論的にみれば、画一的適用が不合理であることを国法の立法形式自体が認めているということができ、実情に適合した条例が制定されてはじめて地公法一六条二号、二八条四項は合憲となり、特例条例が制定されていない場合に本条項を画一的に適用することは憲法一四条、三一条に違反する。」以上のとおり加える。

13  同二六枚目表一行目の「(1)」を「(2)(イ)」と、同五行目の「(2)」を「(ロ)」と、同一〇行目の「(3)」を「(ハ)」と、同裏二行目の「(4)」を「(ニ)」と、同九行目の「(5)」を「(ホ)」と、同二七枚目表三行目の「運用」を「適用」と訂正する。同三一枚目表六行目の「ころには」を「ころ須麿警察署の警察官二名が副館長や課長に原告が同図書館に勤務しているかどうかを尋ねに来た際に」と訂正する。

14  同裏一行目と二行目の間に、次のとおり加える。

「(4) 公務員労働が私企業労働と職務内容を同じくするにいたつた現状からみると、公務員の任用関係については公法上の契約説が最も実態に適合している。地公法一五条は、任用の基準につき『職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない。』として能力主義の原則を定め、同法一七条ないし二二条において任用の方法等を定め、競争試験もしくは選考によるものとしている。私企業労働者の採用については特別の方式はなく、使用者と労働者の各意思の合致によつて契約が成立するが、公務員の場合には能力主義の根本原則が充たされなければならないという差異がある。しかし、この能力主義は、能力の実証さえ充たされればよいわけで、それは競争試験もしくは選考によつて可能であり、原告についてはすでに能力の実証がなされているから、引続きもしくは新たに任用することに何らの支障はない。辞令という要式行為は公法上の契約の成立に不可欠ではない。原告は、昭和五四年五月一〇日執行猶予期間の満了により、同月一一日に資格を回復し、これまで図書館勤務の公務員としてその能力になんら瑕疵がないことが実証されていたのであるから、兵庫県当局が原告を勤務せしめ、原告が勤務したという事実関係の存在により、任用関係はその時点において成立している。この場合、瑕疵が治癒されたとみると継続となり、新たな成立とみると、給与関係、退職金関係等すべて新規の計算をしなければならない。原告が公務員となる資格を喪失していた期間は有罪判決が確定した昭和五二年五月一〇日から執行猶予期間が満了した昭和五四年五月一〇日までであり、同期間中はいかなる公務員に任用されようと無効である。従つて、いかに長期にわたろうと、資格喪失期間中の任用行為は無効であり、その間失職しているという効力は存在する。しかし、新たな任用関係が資格回復後に発生したかどうかとは別問題である。」以上のとおり加える。

15  同三二枚目表一行目と二行目の間に、「(2)(イ) 同(2)(イ)(当審で訂正後のもの)の主張は争う。」を加える。

同二行目の「(2) 同(2)及び(3)」を「(ロ) 同(ロ)及び(ハ)(当審で訂正後のもの)」と、同三行目の「(3) 同(4)」を「(ハ) 同(ニ)(当審で訂正後のもの)」と、同四行目の「(4) 同(5)」を「(ニ) 同(ホ)(当審で訂正後のもの)」と訂正する。同三三枚目表一二行目の「第四一三号」の次に「、民事裁判集七八巻七一九頁」を加える。同裏一行目の「を受け」から同二行目の「失職した」までを「の判決確定によつて地公法一六条二号、二八条四項によりその職を失つたことが明らかであるから、このような」と、同三四枚目裏九行目の「申請」を「申告」と訂正する。

16  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加訂正するほか原判決理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三六枚目表五行目の「第1項」の次に「(当審で訂正後のもの)」を加える。同九行目の「の合憲性」を「が違憲であるとの主張」と訂正する。同一〇行目の「被告が」の次に「地方教育行政の組織及び運営に関する法律三五条によつて準用される」を加える。同一二行目の「争いがないところ」から同裏一行目の「検討する。」までを「争いがない。」と訂正する。同二行目の「(一)」を削除する。

2  同三七枚目表五行目と六行目の間に、「(一) 憲法一四条違反の主張について」を加える。同六行目の「(二)」を「(1)」と訂正する。

3  原判決三七枚目裏六行目の「(三)」を「(2)」と、同七行目の「禁錮以上の刑に処せられ」を「在職中に禁錮以上の刑に処する旨の確定判決を受け」と訂正する。同九行目の「失職させる」の次に「法律効果が発生する」を加える。同一一行目の「(四)」を削除する。

4  原判決三八枚目表二行目の「ものである。」の次に「憲法一五条二項は、公務員が全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではないと定め、地公法三〇条は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならないと定めている。殊に原告のような非現業一般職地方公務員の勤務関係の法的性質は、その根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等に鑑みると一般に公法上の特別権力関係として公法関係に属するものと解せられるのであつて、かかる身分を有する地方公務員は、私企業労働者が使用者に対して負う労働関係上の義務の範囲をこえて、公務の適正な執行をなし、国民(住民)全体に対して不利益をもたらすような行為をしてはならず、職員(一般職地方公務員)は、その職の信用を傷つけ、又は職員全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務(同法三三条)を負うものといわなければならない。しかも、我が国においては、非現業一般職(行政職)地方公務員は、その経験・実績・能力等に応じて各種の職に配置換え、あるいは上位の職(管理職を含む。)に昇任される慣らわしとなつており、同一職種・同一職場にとどまるとは限らない実状にある。」を加える。

5  原判決三八枚目表一三行目の「(五)」を「(3)」と訂正する。

6  原判決三九枚目表一三行目の「(六)」を「(4)」と訂正し、「以上」の前に「もつとも控訴人主張のように、公務員も市民であり、労働力を提供し対価を得て生活する点においては勤労者であり私企業労働者と変りはないが、他方、その職務の内容においては、私企業労働者が私益の追求を主たる目的として行動するのに対し、公務員は国民(住民)全体の利益実現のために行動することを要求される点において異なることは前記のとおりであつて、」を加える。

同裏五行目と六行目の間に、「執行猶予期間を経過すれば、再び競争試験又は選考を経て地方公務員に採用される資格を回復することができるのであつて、永久に地方公務員の地位から追放されるものではないことをも勘案すると、未だ」を加える。

同六行目の「地方公務員を」の次に「法律上このような制度が設けられていない」を加える。

7  原判決三九枚目裏八行目と九行目の間に、次のとおり加える。

「(5)(イ) 被告は、昭和五九年九月現在において特例条例を有する自治体が一九七にのぼり、その要件が原告主張のとおりであることを明らかに争わない。

(ロ) 当該地方公共団体は、地方自治の本旨を実現するため、画一的な自動失職制度を不合理であると判断する場合には、憲法に基づく条例制定権を行使して特例条例を制定し、それによつて地公法の自動失職規定の画一的適用を回避し、細目的・補充的に国民(住民)意思と公務員の身分保障との調和を図るため、合理的にして必要最小限度の失職にとどめる途を有している。

してみれば、特例条例が制定されている場合とそうでない場合に自動失職事由に差異が生じたとしても、地方公共団体は、憲法、地公法その他の法律上、かかる特例条例の制定義務を負つていないのであるから、地方公共団体が特例条例を制定しなかつたからといつて、憲法上の不合理があるということにもならない。

(6) なお、原告は、地方公務員たる身分取得前に犯した犯罪につき公務遂行中に公権的判断(禁錮以上の刑に処する有罪判決)が確定した場合にはその職の信用を損わないから地公法の失職規定の適用がない旨主張するけれども、かかる場合にもその職の信用を損うことは明らかであつて、地公法一六条二号も『単に、禁こ以上の刑に処せられ』と規定して犯罪の成立時期を任用関係成立後に限定していないから、原告の右主張は、その前提を欠き失当である。

(7) また、原告は、禁錮以上の刑に処せられた場合であつても、執行猶予者は、実刑を受けた者に比して、その情状が軽く、社会復帰が期待されているにもかかわらず、実刑を受けた者と同様に自動失職規定が適用されるのは憲法一四条に違反し、かつそれを前提として憲法一三条にも違反する旨主張するけれども、右自動失職規定が憲法一四条に違反しないことは前記(4)判示のとおりであるから、結局、憲法一三条違反の主張も失当である。

(8) なお、憲法一三条は、基本的人権保障にかかわるものとして憲法二二条一項と軌を一にすると解せられるところ、国民は何人も、自由な意思に基づき、公務員を含め自己の希望する職業を選択する自由を有し、幸福を追求する権利を有することは、控訴人主張のとおりである。しかしながら、職業選択の自由・幸福追求に対する国民の権利も絶対無制限のものではなく、公共の福祉による制約を免れないのであつて、公務員についてのみ自動失職制度を採用することが合理性を有するものとして許容されるべきことは前記認定のとおりである。してみれば憲法一三条違反に関する控訴人の主張も失当である。」以上のとおり加える。

8  原判決三九枚目裏九行目の「憲法一四条一項」の次に「、一三条」を加える。

9  同一〇行目と一一行目の間に「(二) 憲法三一条違反の主張について」を加える。同一一行目の「(七)」を「(1)」と訂正する。同四〇枚目表二行目と三行目の間に、「憲法三一条にいわゆる法律の定める手続とは、法の正当な手続(デユー・プロセス・オブ・ロー)を意味し、手続・実体の両者を法律で定めることだけでなく、その両者の内容が適正であることも要求されるのである。そして、この適正手続条項は、刑事手続に限らず、広く人の権利・自由を制限する行政処分の手続にも及ぶと解するのが相当である。」を加える。

同六行目の「の失職措置は」から同七行目の「ものである以上、」を「が失職(任用関係の終了という法律効果の発生)するのは、任命権者により特定の不利益処分が行われた結果によるものではないから、不利益処分(行政処分)をする場合に告知・聴問の機会を与えるべきであるとする適正手続の保障は本件とは無縁のものというべく、かつまた、このような失職の効果は、地公法二八条四項の規定に基づいて法律上当然に発生するものであるうえに、禁錮以上の刑に処せられるためには、必ず憲法三一条ないし三九条の規定、さらには刑事訴訟手続を経て確定されることが前提となつており、しかも、刑の確定という事実それ自体は単純なものであつて、その有無につきあらためて刑の宣告を受けた者に告知・聴問の機会を与えなくても極めて容易に判定できるから、さらにそのうえに地公法所定の分限や懲戒手続にみられるような特別の身分保障を付与すべき必要性は認められない。従つて、未だ」と、同一〇行目の「(八)」を「(2)」と、同四二枚目表六行目の「(九)」を「(3)」と訂正する。

10  原判決四二枚目表八行目の「2」を「(三)」と訂正する。同一〇行目の「憲法」の次に「一三条、」を加える。同一〇行目と一一行目の間に、「右地公法の規定は特例条例の制定を前提として立法されているから、未だこれを制定していない兵庫県が原告に対し右地公法の規定を適用することは、憲法一三条、一四条一項、三一条に違反する。また、」を加える。同一二行目の「本件」の次に「刑事」を、同裏六行目の「憲法」の次に「一三条、」を加える。同八行目の「(一)」を「(1)」と、同一〇行目の「認めているが、」を「認めている。そして、現在特例条例を制定している地方公共団体とその要件は前記7認定のとおりであつて、兵庫県は、地公法制定以来現在まで未だ特例条例を制定していないことが明らかである。しかし、前記7判示のとおり地方公共団体に特例条例の制定義務がないことと、」と、同四三枚目表一行目の「その適用」を「もつて、右地公法の規定の適用」と訂正する。

同三行目の「(二)」を「(2)」と、同六行目の「(1)」を「〈1〉」と、同一二行目の「(2)」を「〈2〉」と、同四四枚目裏六行目の「(3)」を「〈3〉」と訂正する。同九行目の「施設に」の次に「司書職(原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一九、第二〇号証によつて認められる。)に」を加える。

11  原判決四四枚目裏一三行目の「(三)」を「(3)」と訂正する。同四五枚目表四行目の「憲法」の次に「一三条、」を加える。

同五行目と六行目の間に、「ところで、前記乙第二号証、成立に争いない乙第三号証によれば、原告は、昭和四七年八月二三日(前記認定のとおりすでに前記刑事被告事件の公判手続中であつた。)に、任命権者の指揮監督の下にその権限に属するすべての事務をつかさどる兵庫県教育長あてに『禁錮以上の刑に処せられてその執行を終るまで、又はその執行を受けることがなくなるまでの者』等地公法一六条一号ないし五号の欠格事由に該当しないことを誓約する旨の誓約書を提出していること、右被告事件の有罪判決中には原告の職業として図書館員とのみ記載され、地方公務員を意味する肩書が付されていない(公判手続においては地方公務員たる身分を秘匿していたものと推認できる。)ことが認められる。そうすると、原告は、そのとき以来地公法一六条二号ないし同法二八条四項所定の自動失職制度の存在を知つていたものと推認することができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。それ故、原告は、将来、右刑事事件につき有罪判決を受け禁錮以上の刑に処せられ、失職するおそれがあることを予期しながら勤務を継続していたものということができるから、原告についていえば、その主張のような悲惨な結果が不意に襲つてきたものと認めることはできない。」を加える。

同六行目の「しかしながら」を「そして」と、同九、一〇行目の「失職措置を取つた場合であつて、右措置」を「失職通知をした場合であつて、右放置行為」と、同一一行目の「が問題となる」を「等に重大な影響を与える」と、同一二行目の「本件失職措置」を「本件失職通知の時期」と訂正する。同裏一行目の「管理職が」の次に「本件失職通知のかなり以前より」を加える。同五行目の「(四)」を「(4)」と、同四六枚目表二行目の「試験等」を「試験又は選考」と訂正する。同三行目の「任命権者に」の次に「右手続をふまず直ちに」を、同三、四行目の「(再任用)する」の次に「権限はもとよりその」を加える。同七行目の「(五)」を「(5)」と訂正する。同行目の「憲法」の次に「一三条、」を加える。

12  原判決四六枚目表九行目の「3」を「2」と訂正する。同一一行目の「ないとしても」の次に「、原告のように既に能力の実証がなされている場合には」を加える。同裏九行目の「するというようなことはあり得ず」を「し、しかも失職当時に遡及してその地位を回復するというようなことは法律上考えられず、かつ前記のように職員の任命については競争試験又は選考手続が必須要件であることに照らすと」と訂正する。

13  原判決四七枚目表九行目の「失職事由」から同一〇行目冒頭の「る」までを「現に公務員である者が欠格条項に該当するにいたつた場合は、任命権者によるなんらかの処分をまつまでもなく法律上当然に効力が発生して当該公務員がその地位を失う」と、同一一行目の「本件事件の刑事裁判」を「本件刑事事件の有罪判決」と訂正する。同一二行目の「本件失職通知は、」の次に「任命権者が右失職の事実を確認したうえ、」を加える。同裏二行目の「あるとみるという前提において既に」を「あるとみて、右通知によつてはじめて失職するという前提をとつており、前記のようにその前提が」と訂正する。

同一一行目の「としても、」の次に「資格回復後において」を加える。同四八枚目表四行目の「任命権者又はその補助職員であり、」を「前記甲第一九号証や原告本人尋問の結果によつては未だ右主張事実を認めるに足りず、他に任命権者又はその補助職員であつて」と訂正する。同五行目の「同図書館」の次に「副館長、次長、総務課」を加える。同四九枚目表三行目の「数回同図書館を訪れて原告」を「昭和五三年四月から昭和五四年頃まで数回にわたり同図書館を訪れて、原告はかつて学生運動をしていたが現在の勤務状況はどうか等そ」と、同九行目の「原告に対してその旨を告げるとともに」を「館長に報告するとともに、原告に対してもその旨を告げて一般的な」と訂正する。同一一行目の「そして、」の次に「白井」を、同裏二行目の「降)」の次に「昭和五三年四月から藤本次長(副館長の職名が変更された。)」を加える。同六行目の「通報があつた」を「通報が同図書館にあり、藤本次長がこれを受けた」と、同九行目の「職員」を「藤本次長」と訂正する。

14  原判決五〇枚目表一一、一二行目を「に失職して原告と被告との間の雇用契約(任用関係)が終了しており、その後原告と被告との間に雇用契約(任用関係)は成立していないから、原告は被告に対し雇用契約(任用関係)上の権利を現に有しないものといわなければならない。」と訂正する。

二  それゆえ控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山忍 田坂友男 辰巳和男)

別表〈省略〉

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